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2019年11月14日
教員・研究者

北野 勝久 准教授

教員紹介

氏名 北野 勝久
職名 准教授
学位 博士(工学)
領域 量子エネルギー工学講座 環境エネルギー材料工学領域
(プラズマバイオ医工学グループ)

領域HP

プラズマ医療

大気圧低温プラズマを人体に照射するプラズマ医療の研究分野は世界的に注目度が高く、消毒、創傷治癒、止血、がん治療などへの適用が期待されている。プラズマから供給される電子、イオン種、ラジカル種、励起種などの各種活性種は、人体に対して様々な効能をもたらすとされている。下図に示すように大気圧下で指に触れるような低温なプラズマをハンディータイプの小型装置にて簡便に発生させる技術を有しており、共同研究先の研究室へプラズマ源の提供を行っている。様々な機関との医工連携により、消毒、止血に関して歯科分野への適用を進めており、特にプラズマ殺菌による人体の消毒に関する研究を進めている。プラズマ医療という境界領域の分野を科学的なやり方で研究を進めるために、物理、物理化学、化学、生化学、分子生物学、歯学、医学の分野の研究者のみならず、医療機器メーカーなどとも連携した大規模な共同研究ネットワークを作り、幅広い視点からのアプローチを行っている。

プラズマフォトニクスを用いた分析装置の開発

株式会社島津製作所との産学連携共同研究により、高感度ガスクロマトグラフシステムTracera20132月より世界市場で発売を開始している。大気圧プラズマを専門とする北野と、分析装置の国内トップメーカーの島津製作所が2006年より共同研究を進め、革新的なプラズマ検出器を搭載したガスクロマトグラフシステムの開発を行った。

大気圧ヘリウムプラズマから放出される高エネルギーフォトンを用いることで、試料ガス成分を光イオン化することで電気信号として検出を行う。従来の汎用検出器であるTCD100以上、FID2倍以上の高感度を実現しており、0.1ppmレベルの微量成分を検出する高感度である。無機ガスから有機ガスまで幅広いガスを相対感度差が低く検出可能であるユニバーサル検出器としての特徴を有する。電極の劣化が起こらない構造を用いてるために長期に安定な分析が可能である。この様な優れた特徴を備えているにも関わらず、比較的低価格となっており、現在ではシステムガスクロマトグラフとしての販売ではなく、BIDBarrier discharge Ionization Detector)という名称でガスクロマトグラフの汎用検出器としてラインナップされている。現在はさらなる性能向上を行うために、反応素過程に関する基礎的な研究を大学で行い、次世代版の検出器を企業で進めている。

プラズマを用いたバイオマテリアルの開発

希土類含有酸化イットリウム(Y2O3)粒子は近赤外光を励起光として近赤外発光を示す蛍光体であり、生体深部での観察が可能な新たなバイオイメージング蛍光体として期待されている。Y2O3粒子は酸性下で溶解するなどの性質があり、表面修飾による化学安定性の付与が不可欠である。現状、ウエットプロセスによる表面修飾が行われているが、水や二酸化炭素との反応により蛍光を阻害する不純物層が表面に形成し発光強度が低下する問題点があるため、ドライプロセスであるプラズマ化学蒸着(PCVD)法による表面修飾を行っている。本研究では粒子表面に三次元的な表面修飾をドライプロセスで行う事を目的として、Y2O3のナノ粒子を流体的な力で浮遊させながら大気圧プラズマ処理を施す装置を作製し、表面処理後の粒子の評価を行っており、安定性の改善など多くの特性改善に成功している。

過硝酸を利用した新規殺菌技術の研究開発

プラズマ処理水による殺菌技術の研究を通じて、過硝酸(HOONO2)による新規の殺菌技術の開発に成功しました。図に示す様に、プラズマ処理水の成分をイオンクロマトグラフで分離したところ、殺菌有効成分が過硝酸であることが判明しました。活性酸素窒素種の一つである過硝酸の存在は古くから知られていたものの、殺菌への応用は世界初です。高い殺菌力を有しており、殺菌が困難とされる芽胞菌を数秒で殺滅することが可能であり、原液は過酸化水素で一万%に相当するという比類無き殺菌力を有しています。このように高い殺菌力を有する殺菌剤は生体にとって有毒であることが多いですが、過硝酸は医療機器滅菌が可能な濃度の10倍でも、動物実験による安全性試験(経口毒性、皮膚感受性)で問題が無いという、従来の殺菌剤の常識を覆す特性を有しています。また、従来の殺菌剤よりもコストが低いという特徴もあります。新規の殺菌剤として、生体、医療機器、農業、食品分野など幅広い分野への適用が期待できます。医学、歯学、生物学、生化学、分析化学等の様々なアカデミアの研究機関と連携をして、実用化ならび基礎研究を進めています。また、複数の企業が参画する過硝酸応用研究開発コンソーシアムを構築して、産学連携による実用化も進めています。

論文リスト

  1. Yokoyama, S. Ikawa, K. Kitano: “Plasma disinfection via the reduced-pH method using an ex vivo porcine contaminated skin model”, Journal. of Physics. D: Applied Physics, 52, 265401, 11page (2019).
  2. Nagao, D. Esaki, Y. Shibata, S. Ikawa, K. Kitano, Y. Ayukawa, Y. Matsushita, M. Matsuzaki, K. Koyano: “Investigation of a novel sterilization method for biofilms formed on titanium surfaces”, Dental Materials Journal, 38, 654, (2019).
  3. Ikawa, A. Tani, Y. Nakashima, K. Kitano: “Physicochemical properties of bactericidal plasma-treated water”, Journal of Physics D: Applied Physics 49, 4255401 (2016).
  4. Takai, T. Kitamura, J. Kuwabara, S. Ikawa, S. Yoshizawa, K. Shiraki, H. Kawasaki, R. Arakawa, K. Kitano: “Chemical modification of amino acids by atmospheric-pressure cold plasma in aqueous solution”, Journal. of Physics. D: Applied Physics, 47, 285403, 15page (2014).
  5. Takai, G. Ohashi, T. Yoshida, K. M. Sörgjerd, T. Zako, M. Maeda, K. Kitano, K. Shiraki: “Degeneration of amyloid-ß fibrils caused by exposure to low-temperature atmospheric-pressure plasma in aqueous solution”, Applied Physics Letters Vol. 104, 023701, 5page (2014).
  6. Tani, Y. Ono, S. Fukui, S. Ikawa, K. Kitano: “Free radicals induced in aqueous solution by non-contact atmospheric-pressure cold plasma”, Applied Physics Letters. Vol.100, 254103, 3page (2012).
  7. Ikawa, K. Kitano, S. Hamaguchi: “Effects of pH on bacterial inactivation in aqueous solutions due to low-temperature atmospheric pressure plasma application”, Plasma Processes and Polymers, Vol. 7, 1, p.33 (2010).
  8. 北野勝久、浜口智志:”低周波大気圧マイクロプラズマジェット”、応物学会誌, 77(4), pp383-389 (2008).

受賞歴

  1. 大阪大学総長奨励賞(研究部門)、2014年7月.
  2. 日本歯科保存学会 優秀発表賞 ”大気圧低温プラズマのう蝕象牙質に対する殺菌効果”、2013年10月.
  3. プラズマ・核融合学会賞 貢献賞 ”プラズママップ制作委員会”、2010年11月.
  4. 高温学会 学術奨励賞 ”FRCプラズマの電流駆動のための高周波大電力電源の開発”、2003年5月.
  5. 高温学会 学術奨励賞 ”FIX-FRCプラズマの軸方向磁気圧縮”、1998年5月.